暮れの元気な御挨拶・U

 ―――説明しよう。
 その時。放っておくと碌なことをしない牛の仔がお掃除していたのはバズーカだった。
 ちなみにランボさんはお掃除などしたことがないのでとりあえず横倒しになった砲門を覗き込んだ。トリガーとグリップに掛かった紐も普段通りを演出していた。ちょっぴり大きくなったバズーカのために紐もちょっぴり長くなっている。彼のボスは無駄に至れり尽くせりだった。
 もこもこの毛モジャを砲身に突っ込んでぐりぐりしてみたり。
 ―――届かない。
 当り前だがランボさんは行き詰った。あっという間だ。
 何かをそこに入れなければならないような使命感に駆られたのかどうかは解らない。ただなにやら丁度いいと思えるようなぴょこぴょこがぴょこりと彼の前で揺れた。ランボさんは手を伸ばした。
 はっし。
 掴んだそれは抵抗するようにランボさんから遠ざかろうとした。ランボさんは頑張った。だがぴょこりは餃子拳の使い手のしっぽ頭だったので当然のようにランボさんは吹き飛ばされた。ブロッコリーのお化けの姿をした馬鹿に無意味に痛い目に合わされてイーピンは怒った。教育的指導が必要だと厳しいお師匠に育てられた彼女は思った。
「ん、どーしたんだチビ」
 ちなみに。山本武にとってチビっ子たちは全員チビか小僧である。
 彼と彼女の間に言語の疎通はなく、会話をしているようでその実互いが動物と心通わせるような視線の交感であったがそれで大方通じる辺りが彼の彼たる所以であろう。イーピンは考えた。教育的指導をする間ブロッコリーの馬鹿に道具を与えてはならない。サルは道具で進化してもブロッコリーは駄目である。むしろ退化の一途をたどる。山本は重要任務を任された。
「お、結構重いな」
 このあとにいやー今時の玩具は本格的だよなと続く。よくこんなもん持つなあチビはと感心もしてしまう山本少年である。蛇足ながら長身の彼が肩にバズーカを構えている姿はやけにハマった。もしも少年が軍事方面に一方ならぬ興味関心知識を持つ人種、短くいうと三文字であれば自分の姿に陶酔したかもしれないくらい決まっていた。
 なにしろ彼は砲門を自分の方に向けるような絵面的に間抜けな真似はしないのである。
「や、山本?!」
 綱吉はその妙に見覚えのあるような気のする代物を担いでいる親友に驚いて声を上げた。友よそんな物騒なものに手を出してはいかん―――彼の武器が変形式日本刀であることをすっかり失念して綱吉は焦った。
「ん? ツナどーした」
「どーしたじゃなくって何でそんなもの持ってるのー!」
「ああ、預かった」
「駄目、駄目ダメダメったら山本はそんなもの持っちゃ駄目! 危ないだろ!!」
 お願いだから下ろしてくれと綱吉が涙目で訴えるものだから、大げさだなあツナはと笑いつつ無駄に茶目っ気に溢れた彼はそれをひょいっと綱吉に向けた。狙っちまうぞなんてなーとあくまで快活に。
「てめえ! 十代目に何しくさる!」
 そこで黙っている訳のない人物が約一名。
 主の御身に危害を加えるような危険人物は即排除が彼のモットーだ。あまり結果は付いてこないがそうなのだ。綱吉の負う怪我の類の半分くらいは獄寺少年の武器によるものだったり勉強の出来る馬鹿の常識の欠如のせいだったりするのだが勿論そんなことは気付かない。
「よこせ、ケンコー骨!」
「うおいおい」
「ってちょっと待ってなんかやな予感するから!」
 危険物の奪い合いに蒼褪めた綱吉は反射的に家庭教師を振り返って後悔した。何しろ彼がそんな瑣末事にかかずらう訳も無かったのだ。丸ごと無視のどこ吹く風である。食べて飲んだらそりゃお昼寝中だ。そうこうしている間にも奪い合いは取っ組み合いへ発展しそう。
 やばいやばいやばい絶対ヤバイ。
 よく見たら何時ものバズーカじゃない気もするし。もしかして本物? いや十年バズーカもあれはあれで本物だけど。むしろ偽物だったら気苦労もなかったかもだけど!
 やめてーと綱吉が悲痛に叫んだのと。追い詰められたランボが結局四次元ポケットからロケットランチャーを構えたのと。イーピンの餃子拳が炸裂したのと。爆風にもつれ合った結果獄寺の手がバズーカの紐を掴んだのと。
 くぴゃあと牛の仔が泣いたのは果たしてどのタイミングだったのか。
 ぐいと引かれた腕の強さに綱吉が驚く暇もなく。
 衝撃とともに、視界は煙に包まれたのだ。

2005/12/19 LIZHI
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