それは偶然の二重三重四重になったが故の一時の夢のようなもの。
◆ ◆ ◆
奈々に、お歳暮届いてるからツッ君ちょっと開けてみてといわれてその微妙に崩れたオールかな文字から押し寄せる悪い予感に綱吉は眉を顰めた。ちなみに熨斗紙は芸術的に曲がっている。思うにこっちのほうが技術的に難しい。
はっきりいって訊きたくない。物凄く訊きたくないが訊かねばなるまい。場合によっては避難も必要だ。
「ねえ母さん。これ持ってきたのどんなヒト」
「え、宅配屋さんでしょ」
そういえば外国の人だったわね、国際化なのかしら。
どうかそのままでいて欲しいような欲しくないような。買い物に出た母を引き攣りながら見送ると、綱吉は急いで耳をそばだてて箱から時計の音がしないかどうかを確認した。明らかにテレビの見過ぎだが気持ちは察してもらいたい。ちなみに起爆に必要なのはもっと簡単なものであることを誰かが教えるべきだろう。無意味にそおっと蓋を開けた密輸品の中に牛柄の袋を発見して綱吉は叫んだ。こんな生活もう厭だ。
「お歳暮に重火器送ってくるなー!」
ボヴィーノファミリーのドンは彼の幼いヒットマンを牛可愛がりしている、らしい。
「まあまあいける」
「偉そうだなオイ、っていきなり喰ってるし飲んでるし!」
テーブルに広げられたイタリア暮れの詰め合わせセット。送り返す算段を考えていた綱吉はそっちのけで既にその場は宴会の態である。何時も通りに暴れるランボを排除してリボーンは御満悦だ。仮にも自分を狙っている殺し屋のボスから送られたものを、そんな簡単に口にして良いものだろうかと小市民な綱吉なぞは思う。
「ツナ、人間細かいこと気にしてると背が伸びねえぞ」
「関係ない上にお前にいわれたくないわ! って痛い痛い痛いからいやー!」
腕をひねられるのも何時ものことだがこれで御用納めとはいかないところが『住み込まれ』の辛いところだ。ダメージから回復して改めて見る、ペコリーノにハムにブラッドオレンジジュース、ドライトマトにアンチョビ、外しちゃいけない外せないオリーヴオイルとパスタそれから蜂蜜にワインにその他。まあお前にはまだ早いかと零歳から酒場に出入りしていたと証言のある幼児はグラスを傾けつつシニカルに笑った。一体どこから突っ込むべきか見当も付かない。
「十代目、これどうぞ!」
「そして君はなじんでるなああああ」
「ツナ、こっち喰ってみろって」
「山本……いやいいんだ……」
おかしいよね……親友なのに時々、ほんの時々殺意に似たものを覚えるなんて。疲れてるのかなオレ。
理性と本能のせめぎ合いに綱吉が唸るのを眺めて家庭教師は「往生際の悪い」とこっそり呟いた。教え子は意地でも心の平穏を保つアイテム、ぶっちゃけ色眼鏡を外す気はないらしい。切れるまでのカウントダウンに差があるだけで実はそこの右腕候補と大差ない事実に気づけ。
―――無理か。ツナだしな。
良くも悪くも現状維持大好きの受動型である。改善の見込みは薄い。流され体質の癖にある意味頑固だ。零歳児の家庭教師を受け入れた時点で常識にしがみ付く無意味さを知ってもよさそうなものだが、綱吉にいわせればこの環境でせめて「親友くらい普通であってほしい」という誠に切実な願いである。両者の齟齬は海よりも深く意見の一致は今のところチョモランマよりも高く険しい。
この時点まで沢田さんちはいってみれば普段通りの、もしかしたら普段よりは些か平穏かも知れない年の瀬をまったりと送っていた。彼らには大掃除を前もって少しずつやっておこうなどという発想はない。
しかしここに。非常に偏った知識によってしたこともないような大掃除なるものを試みた者がいた。極普通の掃除すらやったことのない人間が一体何を思い立ったのか。ボスに送ってもらった新しい玩具が嬉しかったのか。あるいは顧みられず寂しかったのか。小人閑居して不善を為す。すなわち牛は暇だと碌なことをしない。
「くぴゃあ」
ドカァンと撃発。そしてぼふりと立つ煙。
―――ランボ、それは使っちゃいけないよ。
ボス、ランボさん使ってないよ。ちょっとお掃除しただけだよ―――。
だったら渡すな送るな開発するな。
綱吉の至極まっとうな叫びは大抵の場合流されることになる。
投げやりなタイトルですがお気になさらず←無理です。シリアスもどき(あくまでもどき)を書いててお馬鹿な話を書きなぐりたくなった模様。先に謝っておきますがきっと皆様の期待を裏切ること請け合いなネタです。
無意味に続きものですが、大丈夫こっちは次か、次の次で終わるハズ多分きっと。
2005/12/18 LIZHI
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