出迎えたのは意外なことに若い女性だった。アメデオの孫娘のような年である。
くっきりとした自然の眉が意志の強さを表すような。豊かな髪をひとくくりにしたハンサムなモニカは孫ではなく、どうやら彼の押しかけ弟子であるらしかった。綱吉はつい自分の押しかけ家庭教師を思い浮かべた。立場こそ逆だが。強引で強気な相手に逆らう術など綱吉には思いつかなかったのだ。今ある自分は間違いなくその結果である。
「いい生地で、いい服さ。ただすこおし無理がある」
アメデオは、まるで年齢を感じさせない動きで躰のありとあらゆる箇所を恐ろしいほど素早く採寸していく。
彼が腕の良い仕立て屋であることはバールの店主との会話で知った。誰も経歴を知らず、ある日ふらりとやって来てあの店に入ったそうだ。尤も店主が彼の職業を知ったのは十年も経ってからのことらしいが。押しかけ弟子がやって来たのは一年ほど前だという。
「無理?」
「いらぬ力が入っているということだ」
右腕の選んで仕立てさせたスーツは最上の部類だ。それは綱吉にも判る。だがサルトリアが指すのは服のことだけだろうか。
「アメデオの腕は素晴らしいの」
生地棚にはノスタルジックな香りのする貴重であろう布地も多く納められていた。
やわらかな手触りのキッドモヘア、肉厚のツイード。クラシックのエッセンスと並ぶ現代的な各種の素材。
「ひとりで、どうしたって限界があるから今は気に入った仕事しかしないわ。それに昔からのお客様と。だから私すごく張り切ってるの!」
「どうやら却って悪いことをしたようだなあ」
たまたまその場に居合わせたばかりに。だから、とモニカは綱吉を振り返った。少し怒ってもいるようだ。
「そうじゃないんだわ。ツナヨシがアメデオを必要だということよ」
職人にとってとても重要なことだわ、だってそれが私たちの意味なんだもの。
「ツナヨシを気に入ったのも、本当ね」
あんな無愛想だから判り難いけれどと彼女はウィンクをしてみせる。無表情無愛想の権化のような教師を持っている綱吉には、モニカが師の僅かな表情の違いを読み取るのはそれだけ彼を見てきたからなのだとよく解った。
「モニカはアメデオがとても好きなんだね」
「ええ。ずっと恋してるのよ」
彼の作り出す服を、生み出す腕を彼自身を。時間でもなく、男女でもなく、ひたすらに請うるこの思いを他に何と呼んだらいいのだろう。
「大事なひとがいるのね、ツナヨシ」
綱吉がとても嬉しそうに微笑むから、モニカには判ってしまう。
「うん。オレの先生」
「素敵。私たち同士なんだわ」
綱吉は彼女の素敵な職人の手と手を打ち合わせた。
◆ ◆ ◆
「女からプレゼントだって、ツナ?」
「武ってば。違うよオレの注文品ー」
からかい混じりと事の確認に訪れた主の部屋には、酷く優雅な青年が立っていた。
派手さはない、だが空気さえ染め上げるような存在感。常に十代目一番の獄寺が惚けているのも無理無いだろう。もともと綱吉の内にあったものが第二の皮膚を通して表出したようで、山本は密かに感嘆した。
十日ほど前、護衛ひとりだけで数時間を『行方知れず』になったドンである。その後二度ほどホテルを抜け出した時の騒ぎも一緒に思い出す。ついでに彼は薬中のガキを何人か更生施設送りにもしていたが。
なるほどエンツォが口止めされていた理由が判った。そのうちわかりますからという答えのわけも。綱吉は着せ替え人形のような扱いを嫌っていたから、藪を突いて蛇を出したくなかったのだろうが―――打ち震えている獄寺を見る限り、またしばらく煩くなることだろう。
「惚れ直すねえ」
「あははははは」
どこか肩の力の抜けた様子はしなやかさという彼本来の強さを引き立てる。この親友が笑っていてくれるなら山本にとっては願っても無いことだ。
一方綱吉は、スーツとともに届けられたカードに内心苦笑していた。
『親愛なるボンゴレへ』
これはみんなには内緒だなと冷や汗をかく綱吉だった。
実力あってもまだドンが板についてない頃の綱吉。会合やら仕事で侮られたりってあると思います。若いしね。たいてい受け流すけど気にしないでいられるわけじゃない。だってもともとツナだから。
さてオリキャラ。人間のエンツォにアメデオ爺+モニカ。少しでも気に入って頂ければ幸いです。
2005/10/25 LIZHI
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