07/WJ35号 以降のネタバレを一部含みます。気にしない方だけどうぞ。
少年の君へ
顔には出さないものの―――草壁哲矢は困惑していた。
中学が同一の後輩であったという事実にはずいぶん後から気付いたものだ。
それほどに、自分の知る沢田綱吉はイクォールでボンゴレ十代目だったのだ。ともあれ仕方が無いともいえる。どうやらかつての少年は、草壁などの与り知らぬところで人生に劇的な変化を迎えていたようだから。
草壁は強者を求める。強者を支えることを求める。弱いものは眼に入らない。だから、中学時代の沢田綱吉は、おそらく草壁の視界に入っていなかったのだ。仮令その背後で、彼がいかに生きることに必死になり、護ることに文字通り命を懸けていたのだとしても。
だから以前、気紛れな主の代理としてボンゴレ十代目と話をした時にも、相手が過去後輩であった事実はすっぽりと草壁の中から消えていた。否、そうではなくて端から無かった。記憶の底を突付いたのが彼との会話そのものであっても、それは本人も気付かぬような些細な感覚に過ぎない。ただ、立場上、敬語を使われることに草壁が無意識に示した違和を、青年は容易く感じ取ったらしかった。
不思議な許容の器を持ったひとである。
何でも受け入れてしまうようでいて、けして譲らぬ一面がある。穏和なようで時に苛烈だ。あの雲雀を曲がりなりにも組織というものに繋ぎ止めている。不可侵であるとはすなわち対等であるということだ。しかし、彼らはけして仲が悪いということはなかった。
沢田綱吉という存在は雲雀恭弥を繋ぐひとつの枷だ。
殺す理由があるというのは、嘘でも誇張でもブラフでもない。雲雀がそれを選ぶというのなら、おそらくボンゴレは受けただろう。たゆたうものは複雑な感情ながら、それでも認め合っていた。
雲雀にとってそういう人間は、あまりに貴重に草壁には思えたのだ。
―――そうして、彼
ボンゴレ
に対する口調のまま話しかけた、過去から来た沢田綱吉は、あまりに小さな少年の顔をしていた。
どこか驚いたような表情も、友人の怪我に蒼褪めたさまも、あまりに鮮明に彼の感情を教える。危ういほど。
けれど口調を変える必要はないように思われた。幼くとも彼は沢田綱吉本人だ。
判りやすいものばかりが強さではない。それを教えたのもまたかつてのボンゴレだった。
「あの、ありがとうございます」
「は?」
「二人を、すぐに草壁さんが診てくれたから」
でなければ、あの場できっともっと取り乱していただろうと、少年は軽く唇を噛んだ。彼の動揺はマイナスにはなっても彼等を救うことには繋がらない。それは確かだ、けれども。
そういう顔は、して欲しくない。
草壁は己が心の動きを不思議に思う。
「けど、今度はオレが」
続きは口にされなかった。護るのか、闘うのか、もう傷付けさせないと?
その音にならなかった決意の代わりに、上げられた危うくも強い眼差し。
ボンゴレ十代目、沢田綱吉。今は少年の彼に願わくばまだ。
あの鳥を地上に繋ぐ鎖となって、生き残れ。
フルネーム万歳記念には遅くなりましたが、しっかり経済ヤクザ(マフィアにあらず)にお育ちになった彼等に万歳(笑) ただ上げるタイミングは逃しました…まあいいか…。
えーと、哲やんツナに悪意はなさそうだから、雲雀を繋いでることに文句はないのかなーと思った次第。推奨派ではなくても現状維持派でいてもらいたく。
2007/09/16 LIZHI
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