内緒話は真昼に

「興味が無いというのかい? 生きた芸術品を仕上げることに」
 己の望みのままに、求めるままに、そうであれと仕立て上げることに興味が無いと?
 お前にしちゃ愚問だなと黒の子どもは鼻で哂った。見かけには明らかにそぐわないはずの板についた身振りは、彼の卓抜した力にこそ相応なのだろう。
「そうかな」
「当り前だ」
 オレは光源氏になる気はねーぞ。だいたいマンマは大事だがそいつを一生引きずるあの性根が気にいらねえ。年齢的には光源氏と紫の上の逆を地で行くような片割れはいう。
「自分の理想のボスに育てる気はないってこと?」
「んなマスターベーションみたいな真似は死んでもゴメンだ」
 ふーん、と雲雀恭弥は組んだ脚に肘を突いた手に軽く顎を乗せてその子どもらしからぬ子ども、リボーンを見詰めた。かつてのように赤ん坊と呼ぶには些か成長し過ぎているが少年というには躊躇いがある。中学時代同様、高校であっても公然と校舎内で半私室を構えている風紀委員長は、本日のお茶の相手にかの殺し屋を捉まえたのだった。尤も相手にその気が無ければあっさり断られていただろう。
「じゃあ僕が貰ってもいいワケ」
「無理だな」
 にやりと随分人間らしくなった子どもは口端を吊り上げた。
「ありゃボンゴレのもんなんだよ」
 フンと雲雀は鼻白む。
 そのボンゴレとやらはいずれあの少年自身になるのだろう。正体が殺し屋だろうがマフィアであろうがリボーンは素晴らしく歯応えのある相手で、そんな稀有な存在の言葉を疑う必要は雲雀には最初からなかったのだ。
 大体、とリボーンはカップを置いた。彼の瞳のように底のほうに黒々と揺れる、あまり紅茶を嗜まない彼の為のコーヒー。成長に悪いんじゃないのと密かに思ってはいるが余計なことはいわない。ヒトの心を読めるという子どもには意味の無いことかも知れないが。
 ただ、雲雀は綱吉ほどリボーンのその特異能力を万能だとは思っていないだけだ。だから余計なこともいわない代わりに訊きたいことは口に出すに限る。その辺、綱吉の場合は刷り込みとでもいうのだろうか。話に聞いた限りだが、出会った当初の印象が強すぎるようでリボーンに隠し事は出来ないのだから隠そうとするだけ無駄だ―――くらいに開き直っているらしい。年頃の少年としては些かといわず異様な精神状態であろう。
 欲求だとか、衝動だとか、醜いところも汚いところも。
 全部全部、誰かに知られているとして。それを受け入れることが果たして出来るだろうか。
   ―――だからよくわからないというんだ。
 あの訳の解らなさをデリートしてしまおうと思うことは無くなったのだけれど。理解出来ないそれが存外心地よいものであることを知ったから。
「型に嵌めることが上限を決めるも同然だと、お前がわからねえハズがねえ」
 ほらそれだ―――。
 何だかんだと綱吉を好んで窮地に追い込むような家庭教師は、駄目だ馬鹿だといいながら何かを教え込もうとはしないように見える。ある意味どこまでもスパルタなのだが、それは『沢田綱吉』を信じていなければ出来ないことだろう。鋳型に嵌めて育てるほうがいっそどれほど容易いことか。そしてこの子どもならば、そうして育てた者であっても一定水準をクリアする『作品』に仕上げることがきっと出来る。もっとずっと短期間で。それこそ『芸術作品』にだって。
 けれどそうはしなかったのだ。
 初めから、出会った初めから、そんな風に確信することが出来るのは一体どういった作用が彼に働いたというのか。話に聞く九代目のせいか、何より自分の腕を信じたか、それとも。
 それとも、何だ。
「君たちは本当によくわからない」
「それがいいんだろ」
「ま、少なくとも退屈はしないと思うよ」
 そいつは良かった、といつの間にか移動していた子どもはひらりと窓の外に消えた。後を追うようにご馳走さんと声が届いた。

トップ?会談。リボの教育方針について思うこと。リボが紅茶しないのはイタリアの水が紅茶向きでなかったからとか。
テメーの想像超えたところにある(かもしれない)何かを願ったのだとして、それを主にしようと思ったのならリボ様はマゾですか。ドSのマゾってどーですか。そんで雲雀はとことん作り上げて壊すタイプかも。怖いよー。でもきっと綱吉が予想外すぎて毒気を抜かれるんだよ。
ちなみにタイトルもう少しで『逆紫の上』になるところでした。危険すぎる…。

2005/11/30 (本気でネーミングセンスに不安を覚える)LIZHI
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