競争率とお年頃

 空港で植木鉢が降ってくる。携帯電話が原因不明で壊れる。迎えの車のブレーキが走行中にイカれる。今、後部座席には何百万人目だかの記念品だという牛柄のシャツがラッピングも無残に転がっている。
 飛行機が墜ちなかっただけまだ増しだろうか。そんな小さな幸せ探しで安心なんざ死んでも厭だ。
 どんな呪いだ。やっぱり牛か、牛なのか。わかった牛だな。
 何にせよ車は急に止まれない。
「あいつら…シメる」
 オニキスの瞳に暗い光を湛えて黒尽くめの少年は物騒な台詞を吐いた。

◆ ◆ ◆

 乾燥した土地柄、遠目からもその車の上げる土煙が世にも真っ黒に見えたと後に邸の者は語る。

 執事が急いで開けさせた門扉に飛び込んだのは予想外の早い帰還に慌てて空港へ向かった車だった。
 ハンドルを切って急旋回したその窓から身を乗り出したのは確かに見覚えのある少年で。乱暴というもおこがましい運転にいつもの帽子が風に乗って飛ばされる。狙い違わず撃ち抜かれたタイヤに、豪快にスピンした車体は庭木にぶつかり沈黙した。
 この間およそ十一秒。
 失神している運転手を放って直接窓からひらりと降りた黒服の少年に、周囲の者は声も無い。
 それを尻目に執事は拾った帽子を丁寧に払いいつものように出迎えた。
「すまねえな」
「お気になさらず」
 内心がどうあれ、これで顔色を変えないこの執事も相当であろう。そうでもなければやっていられないという事情はありそうな話だ。
 時間があれば衝撃吸収マットなり捕獲網なり用意しただろうが、なにしろ今回は通信手段すら潰された。リボーンの怠慢といえばそれまでだが最先端科学の徒を向こうに回してはさすがの彼も少々きつい。
 ―――企画開発部にでも依頼しておくか。
 慌てて挨拶してくるファミリーの男たちに鷹揚に頷いて、少年が邸に消えた後にはわらわらと動き出す使用人と、我に返った庭師が残された。

 確かに予定が早まったことを彼に知らせなかったのは自分だがと、リボーンは扉を開けて眉を吊り上げた。
「なんでテメーがここにいる」
「答える必要はねーなコラ」
 十年一日の如き迷彩模様。対峙したアルコバレーノ(無敵のお子様たち)同士に場はいきなりの一触即発に陥った。
 お互いのエモノが相手の急所を狙っているのは当然で。もしもここに下っ端なんぞがいた日には辞表を出して泣いて田舎に帰るだろう。執務室は野生の王国だ。
「おお、賑やかだと思ったらやっぱリボーンか」
 ひょいと顔を覗かせた長身の男の暢気な声がそこへ届いた。ちなみに攻撃は二回ずつ交わした後である。破壊音を聞きながら廊下で番をしていた部下たちは「勇者だ……!」とボスの側近を称えた。
「山本。ツナはどこだ。コイツはなんだ」
「やー、ま、落ち着け?」
「ずっと落ち着かせてもいいんだぞ」
 するか、永眠。
「怖いねぇ」
 とりあえず茶ーにしろ、茶ーに。ほいとトレイを差し出す山本は兵だとこの時コロネロも思った。さすが十年の付き合いは伊達ではない。半分以上は彼の生まれ持った性質だとしても。
「ツナなら留守だぜ」
「ありえねえ。なんで一介の傭兵に留守任せて出歩いてやがんだあの馬鹿は」
 ―――や、アルコバレーノはぜんぜん一介じゃないと思うが。
「ハルとヒバリとチビっ子引き連れて甘味めぐり。前から約束だったらしい」
 イーピンも来てるからな今。コロネロは置いてかれて拗ねてんだ。獄寺は護衛という名のストーキング中だ。
「ふん、ガキだな」
「拗ねてねえ!コラ!」
 第二ラウンドに突入したふたりをもう止める気もせず、山本はカップを庇いつつ安全地帯に避難する。
「あー、やっぱ茶ーは日本茶だな」

◆ ◆ ◆

「リボーンおかえり!てか何、何で崩壊してんのオレの部屋!」
「うるせえ死ね」
 横暴だ、DVだ、とわめく綱吉を無視してリボーンは銃の手入れに余念がない、ように見える自分を知っている。
 機嫌の悪さを彼に迎えてもらえなかったからなどとは、死んでも認めたくない十一歳だった。

……獄寺の扱いがナチュラルに酷い気がするこの頃です。何でだ。
ボヴィーノの牛さんは多分無関係。ヒバリ辺りの悪戯でしょう。リボも判ってますが腹は立つ。
アルコバレーノはファミリーじゃないですがかなりのツナ好きな模様。
(あんましものを考えないで書いて、後で修正したらテンポが崩れました。こういうのは勢いが大事だね…と実感)

2005/11/06 LIZHI
No reproduction or republication without written permission.

CLOSE